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名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和24年(ワ)40号 判決

原告 鳥居昇平

右代理人弁護士 酒井俊雄

森田友五郎

被告 山本与一

右代理人弁護士 上村千一郎

被告 藤井道雄

主文

被告藤井に対する原告の訴を却下する。

被告山本に対する原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

本件審理の経過について

(イ)  原告訴訟代理人は昭和二十四年六月二十六日本件訴状を当裁判所に宛てて郵便に付し同月三十日(ワ)第四〇号事件として受理された。

(ロ)  右訴状には被告藤井の住所を北海道小樽市花園町東三丁目十三番地と表示してある。

(ハ)  第一回口頭弁論期日は同年八月一日午前十時と指定せられ双方に呼出状が送達され(被告等に対しては訴状と共に)た。但し被告藤井は横浜市金沢区町屋町八九で送達を受けたことは送達証書の記載により明白である。

(ニ)  右八月一日の期日は被告山本訴訟代理人の申請により同年九月五日に変更せられたがこの期日において原告訴訟代理人は被告藤井の住所を右送達場所のとおり訂正し被告等の再呼出を求めた。

(ホ)  同年九月二十八日の期日には被告藤井は送達不能のまま出頭せず、被告山本の関係において口頭弁論を開かれ原告は訴状のとおり陳述し、被告山本は答弁書のとおり陳述し双方より証拠申出がなされた。

(ヘ)  被告藤井に対してはその後全然送達不能のまま原告より住所補正の申立もない(昭和三十年五月二十五日の弁論において被告藤井の再呼出を求めると述べたのが唯一の訴訟行為である)

(ト)  被告山本の関係においては昭和二十四年十月二十六日の弁論において証人調が行われた外同年十一月三十日被告不参のため原告において続行、昭和二十五年四月二十八日原告不参のため続行、同年七月五日原告不参のため続行、同年十月十一日休止、昭和二十六年一月八日原告より期日指定の申立があり同年二月二十一日と指定し更らに同日の期日を変更し次回期日は追て指定となつたまま放置されていた。

(チ)  当裁判官は昭和二十九年四月中旬当支部勤務を命ぜられ着任したが本件記録は昭和三十年一月八日はじめて眼に触れたものでそれまで約四年間全然原告は事件の進行を求めなかつたものと推測される。

(リ)  その後昭和三十三年六月二十三日の最終弁論まで三年余に亙り十数回の期日指定に対し原告訴訟代理人が出廷したのは前記(ヘ)の付記のとおり昭和三十年五月二十五日の弁論一回であつて同日も裁判官の釈明に対し被告藤井の住所を至急取調べるから再呼出を求めると述べ延期をしただけでその他は原告の変更申請又は休止の連続である。

(ヌ)  このように八年数ヶ月の永きに亙り審理が停滞し最後に被告山本訴訟代理人だけが出頭し原告訴訟代理人不出頭のまま弁論を命じ審理を終結したものであつてこのようなことは当事者主義を採つている現行民事訴訟法の下においては已むを得ぬこととはいえまことに好ましからぬところであり当事者の主張や証人の証言も八年前の調書の記載によるの他ないものである。

一、原告の主張

請求の趣旨および請求の原因は別紙のとおりである。

二、被告山本の主張

申立

原告の被告山本に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

答弁

被告山本は原告と原告主張のにしん粕の売買をしたことはない。又被告山本は相被告藤井道雄の弟藤井清を原告に紹介したことはあるが相被告本人の紹介をしたことはない。

その余の原告主張はすべて争う。

三、被告藤井について

原告より被告藤井の住所に関し訴状の記載を補正せず第二回弁論の分以後全然呼出状の送達ができない。

四、立証

被告山本の関係において原告申出の証人鳥居しん、後藤豊次、野口繁雄が昭和二十四年十月二十六日の弁論期日に尋問された。

理由

一、被告藤井について

訴状の被告の表示がまちがつていてその送達ができないときの処置については民事訴訟法第二二八条の規定がありその補正がないときは訴状自体を却下すべきものである。ところが本件においては訴状の被告住所の表示はまちがつていたがとに角他の場所で送達されて、原告も被告の住所をこの送達場所と補正する書面を提出した。しかし被告藤井は右住所を退去したためその後全然呼出ができない。そして本件のような進行速度をとつた事件では昭和三十年五月二十五日以前の原告の手続遅延はしばらく見すごすとしても同日の弁論で被告藤井の再呼出を求めその後三年余に亙り十数回期日の指定を受けながら何等補正の手続をせぬ以上原告は被告藤井に対し訴訟を追行する意思がないものとみなすべく民事訴訟法第二〇二条に準じて口頭弁論を経ずして原告の訴を不適法として却下するのが相当である。

二、被告山本について

被告山本訴訟代理人は原告の主張を全面的に争つている。そして原告申出の各証人の証言では右抗争を排して原告主張事実を認めるに足らず原告がその余の立証をなすべき何等の手続をしていないことは前記事実の欄の冒頭に精しく記したとおりである。従つて原告の請求を棄却する他ない。

三、以上の次第であるから被告藤井に対する原告の訴を却下し、被告山本に対する請求はこれを棄却することとし訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片桐孝之助)

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